エアコン修理において、一カ所修理してもまた別のところが・・・こんなイタチごっこの経験はありませんか?特にエアコンシステムの中でコンプレッサーは高額部品なので、交換にはより慎重になるのではないでしょうか。ここではエアコンの冷凍サイクルのお話しを交えつつ、コンプレッサーは交換するべきかどうかを考えていきます。
エアコンガス(冷媒)は忙しい「1サイクルで4変化」
愛車を長く乗る上で起こるトラブル一つにカーエアコンのガス漏れがあります。カーエアコンにはエアコンガス(冷媒)が封入されていることはご存知のことかと思います。まずはこの冷媒の動きを追ってみましょう。エアコンのシステムの中で、冷媒は最初にエンジンルーム内のコンプレッサーにて「圧縮」され高温高圧の気体になります。二番目にフロントバンパー内にあるコンデンサと呼ばれる熱交換器で熱を放出して高温高圧の液体へと「液化」されます。三番目に乗用車ではグローブボックスの奥にあるエキスパンションバルブ内で、冷媒の通路を一度狭く絞って「凝縮」させてから、霧状にすることで低温低圧の液体になります。最後の4番目に、これもグローブボックスの奥にあるエバポレーターで、車内の空気から熱を奪い冷媒は低温低圧の液体から気体へと「蒸発」して、コンプレッサーに戻って行きます。このように冷媒は、液体や気体と姿を変えつつ「圧縮」「液化」「凝縮」「蒸発」といった4つの工程を経ています。これを冷凍サイクルといいます。
ガス補充で乗り切ることの弊害
ガス補充だけでは根本的な解決にならない
冷凍サイクルの一つである圧縮を担うコンプレッサーはとても重要です。冷媒を注入するにはエアコンシステム内を真空にして空気や水分を除去してから行わなければならないほどデリケートです。ガス漏れが発生しているということは、エアコンシステム内から外気への通路がどこかにできてしまっているということです。配管と各パーツの継ぎ目にあるOリングの劣化であったり、飛び石でコンデンサに微小なピンホールが発生したりとガス漏れ原因は様々です。冷媒は大気圧より圧力が高いので、減った分の冷媒は大気中へと放出されます。環境には悪いことですが、冷媒の圧力が大気圧より高く保てているうちはまだ良いのです。問題になるのは、大気圧と同じ気圧までガスが抜けてしまった場合です。空気がエアコンシステム内に侵入しますので、どんなにOリングなどで対策がされていても空気中のほこりやゴミなどの異物が侵入できてしまいます。それらがコンプレッサーに悪影響を及ぼすことは容易に想像できます。
部分修理といっても、多くの場合脱着が必要でOリングの交換も必要とされる
車は走行すれば振動しますし、ボディーには絶えずねじれが加わっています。それらの力から冷媒の圧力を保ちつつ、逃がさないようにするために配管と各パーツの継ぎ目にはOリングが使われています。このOリングは自動車メーカーのサービスマニュアルで分解時要交換部品に指定されていますので再利用ができません。配管やパーツの脱着時には交換が必要です。家庭用エアコンの設置工事の経験がある方ならご存知だと思いますが、設置後のねじれや振動の心配のいらない家庭用エアコンの配管にOリングは使われていません。カーエアコンならではの配慮がなされていると考えられるのではないでしょうか。
コンプレッサー交換をおすすめする理由
修理をしても交換をしても時間と費用に大差はない
さてこのエアコンガス漏れなどのトラブルの修理の際に、原因がコンプレッサーにあり交換を提案したり、されたと仮定しましょう。「交換より修理すれば安くなるのでは?」と思う人も多いでしょうし、整備工場では実際にそういった質問を受けることも多いです。確かに修理なら交換より部品代は安くなります。ですが実際はどうでしょう。最近の車のエンジンルームは狭いのでコンプレッサーの車上修理は現実的ではありませんので必ずコンプレッサーの脱着作業をすることになり、冷媒の回収・真空引き・冷媒注入作業が発生します。尚且つ修理の時はコンプレッサーの分解・修理・組立の工賃が発生し、トータルで見ると交換と修理の差は縮まり時間と費用に大差はないと思われます。また、コンプレッサーの修理はご自身で行えるかが問題です。脱着までご自身で行えたとしても修理はカーエアコンの専門店に依頼してしまうのではないでしょうか。それに車両のパーツリストを見た時に、コンプレッサー内部の細かな部品の設定があるのでしょうか?コンプレッサー単体での部品番号の設定に留まっていると思いますので、部品の入手性について疑問が残ります。
カーユーザーは”何処が壊れているか”よりも”エアコンが効くか”が重要
カーユーザーからしてみればコンプレッサーが壊れても、Oリングの劣化やコンデンサに穴が開いてガス漏れが起きても、「エアコンが壊れた」とひとまとめにして考えられてしまいます。「前回はシャフトシールで今回はベアリングが原因です」という説明をしても、コンプレッサー内部の部品を区別して理解していただくのは困難で、よほど車に詳しいお客様でない限り「またコンプレッサーか」といっしょくたにされてしまいます。「なぜ前回修理でコンプレッサーを開けているのに他の場所の不具合がわからなかったのか」と御叱りを受けたというケースもあります。こういったことからもコンプレッサー交換がオススメと言えるのではないでしょうか。
まとめ「ガス漏れでもコンプレッサーも交換しよう!」
修理後の信頼性といった面では、修理箇所以外の残り寿命まで考えたことはありますか?コンプレッサーのシャフトシールのみ交換したとしましょう。これでまた今までと同じ期間使用できるかといえば難しいと言わざるを得ません。今回交換しなかったコンプレッサー内のベアリングやピストンなどは古いままなので、近い将来再び修理が発生することが予想されます。これでは掛かる手間と費用の割には得られる物が少な過ぎますのでおすすめできません。修理中は車が使えないことも考えると、コンプレッサー交換をして修理期間の短縮と信頼性の向上を図るのが良い選択と考えられます。ただでさえ手間がかかるエアコン修理ですから「まだまだこの車と付き合っていくぞ」とお考えならコンプレッサーだけでなく周辺機器をも含めた予防修理も有効だと考えられます。
ライター@1031
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